モノづくり・DIY|日常のコト
建築大工一級技能士 図面編
- 日常のコト
- モノづくり・DIY
▷この作品を試験の時間内に完成させます。
みなさんこんにちは!大工の柳原です。
先日、建築大工一級技能士という資格に挑戦したのでその様子をご紹介します。
みなさん技能士という資格をご存知でしょうか?
技能士とは、「厚生労働省が実施する「技能検定」に合格した人に与えられる、職業能力開発促進法に基づく国家資格」だそうです。大工以外の建築関係、食料品、衣服、金属など全部で136種の職種で技能試験が行われています。
一般の住宅の大工工事をやる上で必須な資格ではないのですが、持っていたら箔がつくような資格です。私は2級は取得済みでしたので、次は1級に挑戦してみました。
さて、どんな試験かというと、一つの指定の課題を、図面作成→木ごしらえ→墨付け→加工→組み立てという工程を経て完成させる試験です。それぞれの工程で精度を採点されます。
家づくりをされた方は図面というと、パソコンで描かれた1/20や1/50など、縮小された図面を想像すると思います。
大工の描く図面は原寸図という、実物大の図面であることがほとんどです。実際に作るものを実物大で詳細に描き、どのように作るか考えていきます。
縮尺に直すと計算を間違えることもありますし、大きく描いたほうがわかりやすく、間違いも防げます。そんなわけで試験の時に描く図面も原寸図です。
何が描かれているかよくわかりませんね…。私も普段はこんなに複雑な原寸図を描くことがないので、正直よくわかっていません!が、講習会に行って描けるようになりました。
ここに何が描かれているかと言うと、作品の平面図、それから起こした展開図が描かれています。この展開図をもとに、実際に寸法を当たったり、材料を実際に図面の上に置いて加工する場所を写し取ったりします。
この展開図、どうやって描いているかというと、規矩術という大工の数学を使って描いています。日本の伝統的な建物の複雑な構造、特に屋根はこの規矩術を使って考えられています。この規矩術、なにがすごいかというと、複雑な計算なし、さしがね一本で完結してしまうのです。
具体的に言うと、規矩術の考え方では下の写真のように、直角三角形の辺の長さに一つずつ名前がついています。この三角形は勾と殳が分かれば簡単に誰でも書けるものです。
勾と殳は建物によって屋根をどのくらいの勾配で作るか決まっているので、考えるポイントはありません。
戸建ての住宅を建てられた方で三角屋根のお家の方は、立面図の屋根付近に三角形が書かれていると思います。それです。
例えば5/10勾配の時には、勾を10、殳を5の比率で書きます。
勾と殳を結んだものが玄、その他の辺の名前とその長さは下の写真のようになります。
ある点からある辺に対して直角に線を引いていくんですね。
長弦の勾配を使いたいとなれば、100:89の勾配で木材に墨付け(加工する場所に印をつけることです)をします。
この各勾配は屋根の傾きによって変わるので、建てる建物の屋根勾配の三角形を描いて、各辺の長さを計るのが最初の仕事になります。
この様々な勾配が、屋根などを形作る部材の随所に出てきます。今度お寺や神社に行くことがあれば、この屋根は色んな三角形で出来ているのだな、と思って見てみてください。
なぜ、その勾配がここの部材のこの勾配になるか?は私にはわかりません…。三角関数で証明しようとすれば出来るのでしょうが、これを実際に使う大工さんはほぼ覚えてしまっていると思います。伝統の技なんですね。
ただ、現代の大工、残念ながらほぼ規矩術使いません。宮大工さんぐらいにならないとほぼ登場しない術です。
今はプレカットがほとんどですし、屋根も複雑な形状のものは、とくに北海道では見受けられませんね。そんな現代でも、大工の術を伝えようと、技能試験では規矩術を使って図面を起こさないと作れないような課題が出ます。試験がなければほとんど触れることのない世界なので貴重な機会です。
この規矩術、編み出した大工さん方は相当頭が良い学者並みの人達だと思うのですが、単純な三角形を書く、というシンプルな方法で建物を建てようと思ったのが非常に大工さんらしい考え方だなと私は思っています。
私たち大工は机の上、頭の中だけで物事を考えるのが苦手です。実際に描いてみたり作ってみたりしながら、複雑なものを単純化していきます。
難しいものを難しいまま考えるのではなく、なるべく簡単に考えようとするのですね。現場で考え込む暇はない、目の前のものをとにかく完成させるのが仕事だ、という考え方なのだと思います。
現代の大工は規矩術は使いませんが、頭の使い方はなんとなく昔から変わらないのだな、と大工という職業が脈々と受け継がれてきたことを嬉しく思います。
図面作成の話でここまで語ってしまいました。以降の工程は次回ご紹介いたします。それではまた!
柳原