もうひとつ、この家の主役があります。壁際にベンチを造り付け、そこにテーブルを組み合わせた、アメリカの食堂の席のようなダイニング。RENOVESでは「ダイナー」と呼んでいます。
「kiroのダイナーが、居心地よかったんです。時間を忘れて喋れる空間っていいねって。新しく買って探すよりも、そこに固定してあるほうがサイズもぴったりだし、いろんな座り方ができるのもいいなって」
最初はテーブルを造作にして、椅子はインテリアで提案する予定でした。それが変わったのは、ほかのオーナーさんの家「Remastered」を訪ねた日。実際にダイナーに座って、こんなことができちゃうんだ、と思った二人は、その帰り道に決めていました。
「”これもお願いできないかな”って、ふたりでRENO CAFEの会場から歩きながら話していたんです。その日の午後の打ち合わせで、宮島さんに相談しました。”これまでで一番良かったです”という話から、”また追加でお願いしたいことがあって”って切り出したら、宮島さんがその場ですぐに書き出してくれて。急なわがままを聞いてくださって、本当にありがたかったです。」
相談を受けた宮島さんは、その場でレイアウトをすべて整理し直しました。この家は窓が多く、壁際に逃げ場がない。だからダイナーを家の中心に置く。ダイナーからプロジェクターを見られるようにし、キッチンからは一直線。Remasteredとは違うキッチンのレイアウトになったからこそ、これはこれで、すごくいいものになるという確信がありました。
実は宮島さんは、Remasteredのオーナーさんにも「Remasteredのダイナーを見て、いま同じようにつくっている方がいるんです」と伝えていました。すると、「すっごく楽しみにしています」「数ヶ月住んでみた感想だと、座るなら角がおすすめですよ」と返してくれたそうです。それを聞いたご主人は「やっぱり角ですよね。どっち向きにも座れますから」と、嬉しそうに笑います。
優しい色味に、ひと癖
全体の印象は、優しい色味。「無意識のうちにそうなった」と二人は言います。最初にクロスと床の大きな枠組みを決めて、そこから少しずつ派生させていく。タイルは3箇所。通常はキッチンと洗面に貼ることが多いのですが、この家では玄関にも貼りました。
タイルのベースは、小林さんが選びました。白がいいか、シックにいくか、それとも色が欲しいか。何度も相談を重ねて選んだのは、翡翠のような色のタイル。貼ってみると光の加減で少し黄みがかって見えて、それがまた良かったといいます。
一番迷ったのは、キッチンのバックボードのタイル。タイル選びに難航することをRENOVESでは「タイル沼」と呼びます。
「同じサイズなんだけど、模様が違うタイルをランダムに貼っていて。高橋さんが割り付けを何パターンも出してくれて、この割合をもうちょっと減らして、とかたくさん検討しました」
キッチンを正面に見たとき、左手にバックボード、ガラスの扉、アールの窓、造作のテレビボード、そしてダイナー。要素がたくさん集まる場所だからこそ、主張しすぎず、でも一癖つけたい。そのバランスを考えて選ばれたタイルです。
ベースの色はそんなに増やさず、木目は全体で合わせておいて、柄で遊ぶ。窓もまっすぐではなく、アールをつける。テレビボードも普通の箱ではなく、少し遊びを入れる。照明も、あえて絞る。カーペットも思い切って使う。そういう小さなこだわりが、家のあちこちに散りばめられています。
そしてこの家は、迷路のようにたくさんの回遊動線があります。
「行く場所がいろいろあって、迷路ですよ。かくれんぼはできますね。鬼ごっこも、なかなか捕まらない笑」
宮島さんが説明します。
「パブリックとプライベート、というゾーン分けをしているんです。光の計画も、なんとなくパブリック側に光を集めて、人が導かれるように、迷わないように。トイレの動線も、足元を照らしたりとか。細かいところまで、お話して検討しました」